セックスの時に声は抑えなかった。 あえて嬌声をあげたりすることはなかったが、漏れ出る声には蓋をせずに口が開くにまかせた。 安い賃貸のアパートでは隣人に筒抜けだろうが、その壁の薄さが幸いして隣人の生活パターンも把握している。 毎週末、隔週で女がやって来、隔週で家を空ける。単身赴任でもしているのかもしれない。 週ごとに、交代で、このアパートの一角ではセックスの音が響く。 僕は元来表情の変化が表に出にくい方だ。ぼんやりした顔立ちと、なにより常に冷めた心の内がそうさせていた。 ぼんやりしたこの顔をくるくる回転させるには、ひどくオーバーな表現をしなくてはならない。 そうしているうちに僕のこの場所での立ち居地が決まった。もはや上昇の道を閉ざされた自分には道化で十分だ。 殴られれば痛がり、肩を叩かれれば驚く。指をさされれば笑う。 堂島さんは僕を抱くときわりと無表情で、眉を寄せ、時折口元が上擦る。喉仏の動きで彼の快感を知る。 極まる直前の動きに僕の声は一段と高くなる。擦り付けられる腰に合わせてああとかううとか水音に混じる。 堂島さんはきまってその瞬間は口付けた。 全身で抱きしめられ、中が熱く、どろりと溶かされる。 あふれ出るはずの感情はせき止められ、注がれるばかりで行き場がない。 偽りも装いも、抑圧も無い感情は出口をなくして内に蓄積していく。 くだらない近所迷惑とやらに配慮したおかげで堂島さんは自ら逃げ場を失っている。 いつしか引き返せないほどに堂島さんのことが好きになっていた。 02:感情の表し方 精神面で5のお題 Cardinal Moon__ http://slaughter.nobody.jp/ |