数え切れないほどのうざい現実。 その中には堂島さん、あなたも確かに含まれていた。 例えばうちに来ること。 昔から、それこそ子供の頃から自室に人を通すのは好きではなかった。誰か来るのであれば掃除をしなければならないし自分のプライベートも隠してしまわなければならない。 自分だけの私の空間が、どれだけ親しいにせよ他人によって公の場にされてしまうのが苦痛だった。 一人暮らしになってそれは顕著になった。朝起きてから夜寝るまで、さらには眠る間さえ、ここにいる限りはすべて自分だけの空間だった。 それを、平気でぶち壊して入りこんでくる。 彼は僕が気にするほどには僕の空間に興味を示さなかったが、それでも僕の私は侵されている。 うざくてたまらなかった。 僕の布団に、まくらに、他人の肌が触れるのも、窓がひとつで換気が最悪のこの部屋に煙草のにおいがしみつくのも。冷蔵庫を勝手に開けるのも、その中の水を飲むのも、僕のシェーバーに長さの違う毛が残るのも。 全部、いやだった。僕の車に泥のついた靴で乗り込まないで。小銭入れ代わりに使っている灰皿に火を押し付けて、台無しにした。どこで買ってきたのか突然交通安全のおまもりをフロントガラスにつけられ視界がちらつくようになった。暗闇の中押し付けられたシートの固い部分がしばらく僕の肩に痣をのこした。 「あんな、ことをして、それでも堂島さんに抱えた思いはどうにもならなかった。他のすべては捨てられたけど、堂島さんのことを思ったら何がなんでもあそこで死んでしまいたかった。うざいんです、見たくないんです。堂島さんのこと、堂島さんに対する僕の感情のこと」 「…おまえにとって、おれは」 「たぶん、唯一現実でした」 この夢見心地のような霧がかった一年の中で、たったひとつの。 03:想いを伝える 精神面で5のお題 Cardinal Moon__ http://slaughter.nobody.jp/ |