机に向かっている時間はたいして苦痛ではない。パソコンであれ紙であれ、それを捌いていくのは得意な方だ。内容に興味はさっぱり抱けないが、外回りよりはマシというものだ。 それとは逆に、堂島さんはイヤでイヤで仕方ないと体中から不満を漏らしている。 仕事中毒の彼のことだから決して軽んじているわけではないのだろうが、性に合わないというやつだろう、もっと直接的なやり方で済ませたいのだ。 キーの打ち方の拙さがかわいらしいと思った。 「…と、」 そうは言っても、警察の独特のシステムは僕よりも堂島さんの方がずっと理解している。たぶん、あと数ヶ月もすれば追い抜いてしまうだろうが、やはりまだ知らない部分も多かった。 「どうした」 「あー…と、ここの様式ってどこにあるんでしたっけ」 お世辞にもわかりやすいとはいえない画面の上をカーソルでぐるぐるなぞる。 「ああ、それな…」 堂島さんはわざわざ席を立ち、僕の後ろに立ってマウスを操作する。無骨な手に洗練されたデザインの銀色のマウスが不似合いでちょっとおもしろい。 堂島さんは僕の探していたファイルをあっさり見つけると、小さく唸り声を上げて腰を伸ばした。 「あはは、年寄り臭いですよー」 「うるせえ、ずっと座ってると腰が痛えんだ。くそ、間に合うのかこれ」 「ああ、今日の会議の資料でしたっけ。5時からかあ、微妙ですね」 堂島さんのパソコンを身を伸ばしてのぞきこむ。ここしばらく進展のない捜査会議の資料はあまり進んでいない。堂島さんは目をこすっている。 「まあ報告することもあんまり無いですよねえ。前回の分にすこし書き加えるくらいでいいんじゃないですか」 「くそ、そんなの口でちょっと説明すりゃいいだけじゃねえか」 まったくだと思うが、仕事というのはそういう風には出来ていないものだ。僕も別件の捜査関係書類の続きを打ち始める。 「あ、待て。そこ、違う」 「え、どこですか」 「ここの台帳の番号が今年から変わったんだ、ちょっと貸せ」 そう言って再びマウスを奪われた。僕が稲羽に配属される前の変更だろうか、昨年度の資料を参考にしていたので気が付かなかった。 「ここがな…桁数変わって今年から…」 大事なことのようなので身を乗り出してモニタを見つめていると、背中に暖かい感触がした。堂島さんの手があてられていた。 座っている僕の背に身を屈めた堂島さんの左手。右手はマウスでやっぱり不似合い。感覚は背中に、視線は画面と右手を行き来した。 大きくてあたたかな、てのひら。 この手が夜には性的な意志をもって身体を暴いていくのだ。途端にぞくりと快感が貫いた。 「…どうした?」 「堂島さーん、こうやって後ろから身体包まれちゃうのって、OLさんたちにすっごい受けるんですよー知っててやってます?」 「な…」 「内勤の女の子たち、知らないうちに誤解させてるかもしれませんよ」 「ば、バカか。お前にしかこんなことしねえ」 ぱっと堂島さんは身を離し、手のあてられていた部分があっさり冷えていく。 「そうですよね、あの子たちに堂島さんがパソコン教えるのは…はは、想像できないなあ」 「バカなこと言ってねえで…」 「でも僕、今感じちゃったなあ」 あはは、と笑うと今度こそ頭をはたかれ、そうして予想外なことに襟元に手を入れられた。ひゃ、と情けない声を上げてしまい、部屋の隅にいた同僚がこちらを一瞬見た。 「息抜きに一服だ、ついてこい」 首をつかまれ引きずられるように部屋を出た。 04:感じるもの 精神面で5のお題 Cardinal Moon__ http://slaughter.nobody.jp/ |